80年代の映画をバイブルに。鈴木祥監督はただいま航海中

2020/11/10

境界性パーソナルティ障害を抱える女性と彼女を献身的に支える主人公の2人の生活を描いた『ボーダー』。
監督の実体験がベースということもあり、真実味のあるストーリー展開に片時も目を離すことができない作品となっています。
今回は『ボーダー』の監督、鈴木祥さんにお話をお伺いしました。

・10年振りに作品を振り返ってみて

収録を終えられた鈴木監督に感想をお伺いすると、今回、10年振りに作品を振り返ってみて、色々と気づくことがあったそうです。
実は、この『ボーダー』あまり世に出していない作品なのだとか。
映画祭での受賞歴はあるものの、作品のベースは監督ご自身の実体験ということもあり、商業的なところに持っていくのに抵抗があったそうです。
10年という月日が経った今だからこそ、監督自身も当時とは違った目線で見ることができたのかもしれません。

「あしたのSHOW」については、今回の出演がきっかけで初めて知ったという鈴木監督。
番組の印象については、短編映画などを紹介するプラットフォームが日本ではまだ少ない中、  しっかりやっているところに感銘を受けたとのことでした。

日本でも短編映画を扱った映画祭やイベントは増えてきてはいますが、製作される短編映画の本数と釣り合いが取れていないのが現状です。
また短編作品は映画祭で上映されたとしても、尺の関係から劇場で公開されることはほとんどありません。
情熱を持って製作された作品が世に出ることなく消えていってしまうのは、寂しいことですよね。
「あしたのSHOW」では、そういった現状を改善すべく、公開の場を用意しております。
ぜひとも多くのクリエイターの皆さんに活用していただきたと思っています。

他にも最近増えてきた映画の配信についても話題になり、とても興味深いお話が聞けました。

 「映画は映画館で見た方が気づけることがたくさんあるので、その方が贅沢だなと思うけど、
  個人的には見ないより見た方がいいと思うから、時代に合わせてそれぞれの媒体を使って
  いった方がいいし、何なら配信を前提にした新しい映画の作り方が出てくるかもしれない。
  新しく広まっていけばいいと思う。」

配信を前提にした映画作りについては、タイムリーなことに収録日前日にも監督の周りで話題に出ていたそうです。
気楽にスマートフォンで動画が撮れるようになった今、映画のロジックを使って作品を作ってみたらどうなるのか気になるとのことでした。

実際に、海外では有名アーティストがスマートフォンで撮影したMVを発表するなど、スマートフォンでも本格的な作品を作れることは実証済みです。
そこに映画のロジックを使ってとなると、とても面白い作品が撮れそうですよね。

・きっかけは『ドンドン、バーン』の世界
鈴木監督が映画の道を志した理由は、子供の頃に見ていた映画の影響が大きいそうです。
『ボーダー』は最初から最後までシリアスな空気が漂う作品ですが、実は鈴木監督のバイブルはずっとターミーネーター。
それこそ80年代のアクション映画などを観て、映画の世界に興味を持ったのだとか。
『ボーダー』のテイストを考えると意外な答えが返ってきてビックリしました。

「ドンドン、バーン!!」のハリウッドアクションに影響を受けた鈴木少年は、自分でもこういう作品を作れたらいいなという思いから日本大学芸術学部に入学。
実は鈴木監督、日芸にはストレート入学したわけではありませんでした。
すでに他の大学に通っていたものの、やはり映画について学びたいという気持ちから編入を決意し、見事合格。
日芸で出会った仲間達と作り上げた作品の一つが、今回番組で紹介した『ボーダー』なのです。
ジャンルこそ違うものの、『ボーダー』を撮影する際には、子供の頃好きだった80年代の映画のバイブルが非常に役立ったそうです。
「当時の総力を全て注ぎきった」と懐かしそうにお話しされていたのが印象的でした。

・映画は自分にとっての港
日芸を卒業後は制作会社で働く中で、鈴木監督は次第に自分の好きな映画を自分で撮れたらいいやという気持ちを抱くようになったそうです。
そして現在は、映像と全く関係ない仕事に就かれています。
映像に関係ないといえども、これまで培った映像技術は現在の仕事場でも存分に活かしているとのことで、現在のお仕事と映像についての鈴木監督のお話は、とても興味深く、そして非常に意義のあることでした。

ご自身のことを「飽きっぽいっちゃ飽きっぽい」とおっしゃられる鈴木監督。
映画以外にもいろんなことに興味があるそうで、面白いと思うこといろいろとやるのが好きなんだそうです。
映画とご自身の関係について、このようにもお話してくださいました。

「映画は僕にとって港みたいなもの。ずっとそこにいると港自体に飽きちゃうんで、たまにこう別
 のとこに行って、それこそシナリオハンティングじゃないですけど、こういう職業について仕事
 をしたらこういう人がいるんだ、だいたい分かった。ってなったら、また港に戻ってっていう
 のを繰り返しているような気がする。今の仕事で映像的なことをいくつかやってみて、また何か
 見えたり、知ってもらった方がいいなと思うことがあったらガッツリ映画を撮ってみてもいい
 と思っている。」

とくに「映画の世界」と「そうではない世界」を意識して棲みわけしているわけでもなく、また、シナリオハンティングを目的に仕事を選んでいるということもないそうです。
ただただ「やったことがないことをするのが好き。」と笑顔で話される好奇心旺盛な表情は、収録では垣間見られなかった一面でした。

・最新作『愚か者』が11月から公開
鈴木監督の最新作『愚か者』が11月20日からテアトル新宿を皮切りに、順次公開が決まっています。

最新作の『愚か者』は、今回番組で紹介した『ボーダー』とテイストが大きく異なった映画となっているそうです。
というのも『ボーダー』は監督ご自身が脚本を執筆し、絵コンテも担当するといった具合に、監督が中心になって製作されたのに対して、脚本は日芸の同期の仲間が担当し、そして『ボーダー』でカメラマンを担当していた方が共同監督というチームで作り上げた作品が『愚か者』なのです。
シリアスな内容だった『ボーダー』と打って変わって、『愚か者』は女性同士が結託して物語の中を突き進むエンターテイメント作品に仕上げているので味わいは全く異なる作品となっているとのことでした。

同じ監督が撮ったとは誰も思わないかもしれないと監督自身がおっしゃられる最新作。
『ボーダー』とは違う鈴木監督の世界観を劇場でご覧ください。

・次回作はサメ映画!?
「超ド級エンターテイメントでTHE80年代!みたいな作品」と「ヨーロッパ系の作品」がご自身のベースになっているという鈴木監督。
ヨーロッパ系の作品には、青春時代にビシビシとやられたそうです。

そんな鈴木監督に撮りたい作品をお伺いすると返ってきた答えは、なんと「サメ映画」!
冗談として取られることが多いそうですが、ご本人は極めて本気とのこと。

監督ご自身の分析では「得意というか、やった時にうまくハマるのは『ボーダー』のようなシリアスなドラマや男女ものの作品。でもやりたいのは大爆発!」なんだそうです。
好きな映画のジャンルと得意な映画のジャンルがずれてしまうことを「ジレンマっちゃジレンマ。」と監督は笑ってお話ししてくださいましたが、いつか鈴木監督が撮った大爆発の映画を見てみたいと思うぐらい、80年代の映画愛が感じられました。

鈴木監督が、映画という港に戻ってこられた時の新作、今から楽しみです。