静かさの中に見え隠れする情熱。『林こずえの業』の蔦哲一朗監督

2020/10/20

林業に携わる女性の生活を描いた『林こずえの業』
あまり知られていない林業を取り上げられており、画面いっぱいに広がる自然の美しさに圧倒される作品になっています。
『あしたのSHOW』収録後に、監督の蔦哲一朗監督にお話をお伺いしました。

・収録は自然な感じで
打ち合わせから収録本番まで、とても落ち着いた様子だった蔦監督。
収録後、ご本人に感想をお伺いすると「自然な感じでできたかな」とクールなお言葉が返ってきました。
しかし、実はクールな様子とは裏腹に、それぞれの監督に決めていただく「決めポーズ」は、この日、一番可愛いものだったのです。
まだ配信を見てらっしゃらない方は、蔦監督の決めポーズもチェックしてみてくださいね。

『あしたのSHOW』については、お知り合いの方のSNSなどで写真を見て知ってはいたものの、番組自体はまだ見たことがないそうです。
そんな蔦監督が、今回出演を決めた理由は「自分の作品を上演してくれるということで、いい機会だと思った」から。
というのも、今回の『林こずえの業』は県からの依頼があって制作された映画であり、普通のインディーズ映画とは少々異なる作品となっています。
学生さんたちのような若い人に林業を知ってもらうためのPR作品というのが県からのリクエストだったので、テレビ放送やDVD販売が難しく、作品を見てもらう機会が限られてしまうのです。
監督自身でも海外の映画祭などに出しているものの、こういう配信という機会をもらえたのはありがたいと話してくださいました。

・『あしたのSHOW』の印象について
「作品を流しつつ、作品紹介もしてくれる。淀川長治さんの番組のような感じに近いのかな。最近ない感じでいいなと。」
蔦監督に『あしたのSHOW』の印象をお伺いすると、このような言葉が返ってきました。
確かに、何年か前までは『金曜ロードショー』『日曜洋画劇場』など、映画本編の前後に解説が入った番組が多数あり、映画ファンの心をときめかせていました。
映画本編はもちろんのこと、このような番組で映画の解説や裏話を聞くのが好きだった人も多くいたのではないでしょうか。

しかし、インディーズ映画においては、映画の制作秘話や作り手の想いなどを公の場で観客に伝えられる機会は滅多にありません。
多くの製作者が、比較的コストや時間的負担がかからないSNSを活用しているのが現状です。
そんな中で『あしたのSHOW』では、映画本編放送後に監督や出演者などからお話をお伺いする時間を設けています。
映画本編が終わってすぐに監督など制作側の話が聞ける機会は、インディーズ作品に限らず舞台挨拶などに行かない限りはなかなかありません。
そういった点でも『あしたのSHOW』は作品を発表する場だけで留まらず、観客と制作側を結びつける新しいツールにもなり得るともいえます。

また現在、完全に無料の『あしたのSHOW』ですが、将来的にユーザーの方々が気に入った作品に投げ銭ができる「投げ銭システム」の導入も検討中です。
蔦監督にお話をお伺いしていた際にも、この投げ銭システムについて話題になりました。
実は蔦監督も以前、無料上映会を企画して、作品を気にいって頂いた方にカンパをお願いするという、今でいう「投げ銭システム」に似たイベントを行ったことがあったそうです。
監督からは「このようなシステムが今後しっかりと形になれば、作るチャンス・上映するチャンスが増えるので頑張ってほしい」というお言葉も頂戴しました。
現在は、映画制作にあたりクラウドファンディングなどの利用が主流になってきていますが、今後のインディーズ映画界の発展において、この投げ銭システムの存在が今以上に重要になってくるかもしれません。

・ドキュメンタリー好きな少年が映画業界に

蔦哲一郎監督は徳島県生まれ。
子供の頃はサッカー少年だったそうです。
その一方で、もともと自然を扱ったドキュメンタリー番組が好きで、漠然とした思いを抱きながら映像系の大学に入学し、映画に出会います。
しかし出会いはそれだけではありませんでした。
大学の授業でフィルムの授業があり、蔦監督はフィルムの奥深さにハマっていきます。
フィルムに特化した先生に、フィルムについて授業後にいろいろと教えてもらうと機会にも恵まれました。
大学時代に作っていた映像も、もちろんフィルムで白黒のもの。
黒澤明やチャップリンの作品にも大きな影響を受けたそうです。

大学卒業後は高田馬場にある松竹早稲田で映写技師として働き始めます。
今では珍しいフィルムでの上映ですが、当時の松竹早稲田ではしばしばフィルム上映も行われていたそうです。
フィルムが廻るのを見るのが、とても楽しかったと話す監督の顔がとても輝いていたのが印象的でした。

監督が『あしたのSHOW』の中でもお話しされていた通り、今回の『林こずえの業』もフィルムで撮られた作品です。
デジタルでの撮影が主流になった今、手間がかかるフィルムでの撮影はとても珍しいのですが、お話をお伺いしていると監督のフィルムへの愛がヒシヒシと伝わってきました。

・配給する立場から考える今後の映画業界
現在は、海外の配給のお仕事もされている蔦監督。
第68回ベルリン国際映画祭で「金熊賞(最高賞)」を受賞した『タッチー・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』の配給も行っています。
配給を行う立場としても、監督からとても興味深いお話をお伺いしました。
今、日本ではミニシアターなどで海外の良質な作品の上映が少なくなってきています。
その原因として考えられるのは、ビジネスとしての成り立ちの難しさです。
しかし「お金にならないから上映しない」だと、配給会社やミニシアターなどの運営もますます厳しくなってきてしまいます。
「良質な作品が見れる場をなくしたくない」
という監督の言葉は、とても真剣なものでした。
厳しい状況の解決策の1つとして作品のネット配信については、コロナ以前から度々話題になっており、幸か不幸かコロナで映像の配信について改めて見直されています。

「配信に関しては抵抗はない。」
という蔦監督の言葉通り、配給を担当している『タッチー・ミー・ノット〜ローラと秘密のカウンセリング〜』も近々配信される予定です。
また映像の配信、そして新しい映画の関わり方について、以下のようにお話して下さいました。

「たまに映画は映画館でとこだわる人もいっらしゃるんですけど、なんだかんだで僕が映画を見たきっかけというのはテレビの金曜ロードーショーとかで、映画をテレビで見てから始まっていたりするんで、入り口としてはそんなにこだわらなくても、いろんなところで皆さん、見てもらった方がいいと思うんですよ。そこから、もっと映画を観たいという人は映画館に行けばいいと思うし、そんな可能性を閉ざす必要はないんで配信という形からちゃんと映画が好きという人が出てきたらいいなと思います。」

監督の言葉通り、観客側も制作側にとっても「映画の入り口」が、今後、作品の配信によって変わってくるかもしれません。
インディーズ映画界でも「映画は映画館で!」というこだわりを持っている方もいるかと思います。しかし、今は、さまざまな形で作品を発表できる世の中です。
配信から話題になってからの劇場上映というスタイルも、これからは増えてくるでしょう。

『あしたのSHOW』でも、毎週、良質なインディーズ作品を配信中です。
もっと多くの人に自分たちの作品を見て欲しいという監督や制作の方にとっては、チャンスの場であり、映画館で観れないような作品を観たいという人にとっては新しい出会いと感動を見つけられる場でもあります。
そして、インディーズ業界を少しでも良くしていきたいという想いで活動中です。
監督・制作側の方々も、そして映画ファンの方にも活用していただけるプラットフォームになることを『あしたのSHOW』は目指しています。

・今後の活動や目標
蔦監督に今後の抱負について伺うと「(自分は)発展途上。フィクション、ドキュメンタリー、ジャンルに関わらず、自分のスタイルを見極めていきたい。」と返ってきました。
まだ36歳の蔦哲一朗監督。
終始、冷静で淡々とした話し振りでしたが、映画やフィルムへの真っ直ぐな想いはしっかりと伝わってきました。

「お芝居、お芝居したものは好きじゃない。」
と静かに話す蔦監督の次回作が今から楽しみです。